渡辺 洋

研究で磨いた思考を
特大のシフォンケーキに込めて
人と地域に、恩を返す

  • 合同会社 六花工学
    代表
  • 渡辺 洋さん
  • WATANABE Hiroshi
  • 1998年度大学院工学研究科 博士後期課程システム設計工学専攻(現:総合創成工学専攻) 修了

研究で培った思考が、独自のシフォンケーキを生んだ

 Snowcafeをオープンしたきっかけは「パパ、ケーキってどうやって作るの?」という娘の何気ないひとことでした。その言葉は研究一筋だった私の視線を、研究室の外へと向けました。冷蔵ケースに並ぶケーキを見て「冷やして作るもの」と思い込んでいた娘に、焼いて作るケーキの工程を見せたい。私はシフォンケーキづくりに向き合い始めました。
 大学院時代から融雪や熱流体工学の研究に専念し、理論と実験を行き来する日々を送っていました。夜中の雪山でデータを取り、思うような結果が出ずに試行錯誤を繰り返す。その過程そのものが面白く、研究に夢中になっていました。大学院卒業後は研究を深めながら、企業や地域の相談に関わるマーケティングアドバイザーとしての経験も重ねてきました。研究で培った「課題を分解し、仮説を立て、検証する」という思考を社会の現場で生かし、融雪装置をはじめとするインフラへと結びつけてきました。
 思い立って手掛けたシフォンケーキづくりも、単なる趣味では終わらせませんでした。失敗の原因を丁寧に洗い出しながら、試作と検証を重ねていきました。「やるからには独自性を極めたい」と試行錯誤を繰り返し、完成したのは23センチもの特大シフォンケーキです。やがてこのケーキを求めて永平寺町まで足を運んでくださる方が増えていきました。今、Snowcafeは、単なるシフォンケーキ専門店ではなく、「ワクワクした空気感に共感する場所」として、知っていただけるようになってきました。
 もっと地域を知ってほしい、ワクワクを届けたいという思いで仕掛けたのが、恐竜の着ぐるみを着て、えちぜん鉄道の駅のホームで乗客を出迎える、「勝手にえちてつ」の活動です。SNSで話題になり、「わざわざ永平寺まで行く理由」をつくることができました。

恐竜が手を振る永平寺町の一コマ。人に地域に恩送りを

 正直に言うと、融雪の研究は本当に大好きでしたが、雪の現場でどれだけデータを集めても、誰かから「ありがとう」と言われることは、ほとんどありません。一方で、シフォンケーキは手渡した瞬間に反応が返ってきます。恐竜の着ぐるみには笑顔が集います。その違いが、人に喜ばれる実感を持てる場として、地域と関わり続ける原動力になっていきました。
 シフォンケーキづくりは、今では「売る」だけの仕事ではありません。越前和紙や越前刃物と組み合わせて特産品の魅力を発信し、ケーキ教室を開いて製法や考え方を伝えるようにもなりました。オンライン教室には国内外から生徒が集まり、失敗を重ねながら、それぞれのやり方を自分のスキームとして身につけていきます。その中で、生徒には「うまくやるより、たくさん失敗してほしい」と伝えています。研究でも、ケーキでも、事業でも、答えは最初から用意されていません。だからこそ、失敗の中で考え、工夫し、自分の形にしていくことが大切だと感じています。学生の皆さんもたくさん失敗してほしいですね。
 私の根底にあるのは、「恩送り」という思いです。研究や地域、これまで支えてくれた人たちへの感謝を、次の人達に送っていきたい。その気持ちが、教えること、伝えること、地域と関わり続けることへと自然につながってきました。失敗を恐れず挑戦した経験は、必ず次の一手につながる。私は、自分自身の歩みを通して、そのことを伝えていきたいと思っています。

My memories

  • 問題は、現場にあって、答えも必ず現場にある
  • 人は、『楽しいと美味しい』に必ず集まる