長谷川 美香 先生

「愛情ってなに?」DVの連鎖を断ち切る

  • 医学部(地域看護学、ドメスティック?バイオレンス) 教授
  • 長谷川 美香 先生

きっかけは「後悔」

「配偶者からの暴力(ドメスティック?バイオレンス)防止法」が2001年に施行されてから15年が経ちました。現在は、DVという言葉があたりまえのように使われていますが、私が保健師として地域の方に関わっていた20年前は、DVという言葉がまだない時代。アルコール依存症等の精神障害の夫から暴力を受ける妻のケースとして扱うことがほとんどでした。当時、夫のもとから妻を引き離してもまた自分から戻り暴力を受ける、そんな当事者の行動がなぜなのか理解できず、支援しても虚しく感じ、腹を立てたこともありました。

ある時、当事者の夫が肝臓を悪くして亡くなり、すべてが終わったと支援を打ち切りました。ところが、随分経ってから、今度は「子どもが交際中の彼女に暴力を振るっている」と相談を受けました。「子どもに暴力が引き継がれている、まだ終わっていなかったんだ」「いったいあの家族に何があったんだろう」。上手く関われなかった経験と後悔が研究者としての大きな推進力となっています。

負の連鎖を断ち切るために

デートDVをテーマにした卒業研究をする学生らと

デートDVをテーマにした卒業研究をする学生らと

研究を進めていくうちに、育った家庭の中で両親の間に身体的暴力があった子どもは、大人になって自分の家族を持った時に配偶者に身体的暴力を行うリスクが約3倍、配偶者から身体的暴力を受けるリスクが約4倍も高いことがわかってきました。暴力のある家庭で育ち、親のDVを目撃した子どもたちは、たとえ自身が直接虐待されていなくても心に深いダメージを負う。それが子どもたちを苦しめ、将来に影響を与える。若い世代の段階で予防し、世代間の連鎖を断ち切ることが最重要だと感じました。

現在は結婚前の恋人同士にターゲットを絞った「デートDV」の教育に取り組んでいます。DVは特別な人たちに起こる問題ではなく、身近なところで起こっていることを若い人たちに知ってほしい。そんな思いから、中学校、高校でデートDVについての出前講座を開いてます。まだ未熟な彼らは、どういうことがDVなのかを理解していません。若ければ若いほど、嫉妬や束縛を愛情だと誤解することも。たとえ恋人同士であっても、度を超えたものは「本当に愛情なの?」と問いかけます。交際経験がない子は、DV教育を素直に受け止め、認識を深めますが、経験がある子は「これぐらいなら」と認識が浅くなる傾向にあります。さらなる被害者や加害者を作らないために、交際が始まる前の早い段階で教育をしていくことが大切だと考えています。

心も看る魅力的な人に

DV被害当事者の方々と一緒に制作したDV啓発カレンダー

DV被害当事者の方々と一緒に制作したDV啓発カレンダー

DVは、一人で解決できるものではなく、警察?法律?教育?福祉?医療など、多くの機関が関わらないと解決できない社会問題です。その中で、看護職の役割はとても大きなもの。病院の中で出会う患者さんたちにもDV問題を抱えている人がいるかもしれない、そんな人を出来るだけ早く見つけだすのも看護職の役割の一つです。

看護職を目指す学生には、相手のことを思い、色々なことに興味を持ち、たくさんの経験を積む。看護師である前に魅力的な人間になってほしいと思います。

今ハマっていること★

P11_03観葉植物を育てています。一度枯らしてしまったことがあって、今度は愛情深く育ててみようと、毎日話しかけています。それぞれ、名前もちゃんとあるんですよ(笑)