工学が、医療を支援
- 長宗 高樹
- NAGAMUNE Kouki
- 工学部 准教授(知能機械学?機械システム、医用システム)
Profile
神奈川県生まれ。1999年、姫路工業大学(現兵庫県立大学)工学部卒業。2004年、同大大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)取得。同年、神戸大学大学院医学系研究科特命助手。2006年、同講師。2007年、福井大学大学院工学研究科知能システム工学専攻講師。2010年より現職。
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命かけた手術に触れて、医工学の道へ
大学院2年の頃、姉の娘が複雑な心臓疾患を持って生まれました。小さな体で何度も大きな手術を受ける姪。姉夫婦のはかり知れない心労。寄り添う以外何もできない自分。何とかその小さな命を助けてほしい、心の底から祈ったことをよく覚えています。幸い、姪は健康に育ちました。工学を学んでいた私にとっては、姪の入院先で多くの電子機器などの現代医療技術を目の当たりにする体験でもありました。自分でも何かできるのではないか。その思いが私を医工学への道へ導いたのです。
多才なテクノロジーで高齢化社会に貢献
大学を卒業後、研究に取り組み始めたときのことです。高齢者などにみられる膝関節の異常の診断で、関節を曲げて動き具合を調べる検査に着目しました。当時の医師は、その動きについて「ガクン」とか「ツルン」といった擬音を使って診断していました。症状の程度を示すには曖昧だと考え、膝を曲げる際の特定部位の加速度を計測し、評価するシステムを考案しました。このシステムで、治療の経過を客観的に見ることができ、治療方針も立てやすくなりました。
近年の取り組みでは、外科手術における看護師への支援システムの開発があります。手術中にメス、鉗子、はさみなど多種多様な器具を医師に手渡す役割を看護師が担います。しかし、間違いなく的確なタイミングで何を渡すか判断して行うのには熟練が必要です。この看護師の業務の効率化?正確性向上に資する狙いで、手術室内において器具画像をAI(人工知能)認識させ、適時にプロジェクションマッピングで該当器具を照らし出し、強調するシステムの研究を進めています。
筋力や運動機能が衰えている「サルコペニア」の高齢者の増加も懸念されています。対策として医工学の観点で私が研究しているのは、高齢者に自宅でVR(仮想現実)ヘッドセットなどを装着してもらい、運動能力などを体に負担なく計測。適切な運動をVRで促すなど健康維持を支援するシステムの構築です。
今後、医師、看護師ら医療に携わる人材の減少が心配されています。工学にはIT(情報技術)、AI、ロボットといった多彩な技術資源がまだまだあります。それらを活用して少ない人員で多くの高齢者を見守れる社会への発展に貢献したいですね。
ハワイには家族で何度も訪れています。特にハワイ島でのんびり過ごす時間が気に入っています。